会社オーナーの年間収入は、役員報酬2,000万円、自社からの配当収入500万円の合計2,500万円と仮定します。この配当収入を役員報酬に替えると、総収入2,500万円ということで代わりません。個人から法人の方に目を向けてみると、元々配当金は、法人が出した利益に対して法人税等を支払い、残った可処分所得を財源として支払われるものです。すなわち、配当金は法人税を払った後にさらに所得税も払うという二重課税の構造をもっています。 |
【配当金500万円を役員報酬で支給した場合のケース】 上記の通り、配当金を役員報酬に振り替えることにより、株価引下げの効果に繋がります。非上場株式を評価するうえで、類似業種比準価額の引下げにも繋がります。 類似業種比準価額は、自社の"配当"、"利益"、"純資産"の3つの要素から算定されます。配当をゼロにし、しかも利益も引き下げるわけですから、株価は引き下げられます。しかも、現在は株価評価における利益のウェイトが高くなっているので、より効果的です。 |
【ポイント】 類似業種比準価格の評価方法類似業種比準価額方式は、業種の類似する大会社の平均株価に比準させて、評価会社の株式価格を求める方式です。比準要素は、1株当たりの配当金額、1株当たりの利益金額、1株当たりの純資産価額(帳簿価額)の3要素です。具体的には次の算式で計算します 。 ※斟酌率:大会社は0.7、中会社は0.6、小会社は0.5。
この算式におけるA、B、C、D、(B)、(C)および(D)はそれぞれ次によります。なお、A、B、C、Dの数値は国税庁から発表されます。 類似業種の | 評価会社の | A | 株価(注1) | - | - | B | 課税時期の属する年の1株当たりの 配当金額 | (B) | 直前期末における1株当たりの 配当金額 | C | 課税時期の属する年の1株当たりの 年利益金額 | (C) | 直前期末における1株当たりの 利益金額(注2) | D | 課税時期の属する年の1株当たりの 純資産価額(帳簿価額) | (D) | 直前期末における1株当たりの 純資産価額(帳簿価額)(注3) |
次の①~④のうち最も低い金額を採用します。 ①課税時期の属する月の類似業種の毎日の最終価格の月平均株価 ②課税時期の属する月の前月の類似業種の毎日の最終価格の月平均株価 ③課税時期の属する月の前々月の類似業種の毎日の最終価格の月平均株価 ④類似業種の前年平均株価 「損益計算書上の利益」ではなく、「法人税の課税所得を基礎とした金額」を採用します。
純資産価額=直前期末の資本金額+資本積立金額+利益積立金額 |
(1)売却した側の税務
【原則】非上場株式を発行会社に売却した場合には、「みなし配当」課税として最高50%の税率で課税。 |
【特例】平成16年度改正により、平成16年度4月1日以降の譲渡について、相続で取得した非上場株式を相続税の申告期限後3年以内に発行会社に譲渡した場合、みなし配当課税は行われず、譲渡所得課税。 | ※譲渡として扱われるため、「相続財産を譲渡した場合の取得費加算の特例」を併用できます。
(2)取得法人の税務 自己株式を取得した法人については、資本等取引となりますので、課税関係の発生はない。
A氏は相続で取得した株式を、発行会社B社(非上場会社)に相続発生から2年後に売却をした。① | 売却価額 | 20,000円/株 | ② | 取得価額 | 10,000円/株 | ③ | 資本等の額 | 10,000円/株 | ④ | 売却株数 | 10,000株 | ⑤ | A氏の相続税額 | 2億円 | ⑥ | A氏の相続税課税価格 | 5億円 |
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(1)みなし配当課税の場合 (20,000円-10,000円)×10,000株=10,000万円(みなし配当) 10,000万円×50%(最高税率)=5,000万円
(2)譲渡所得課税の場合 取得費加算 2億円×1億円/5億円=4,000万円 20,000万円-(10,000万円+4,000万円)=6,000万円 6,000万円×20%=1,200万円① | 自己株式を売却した場合には、総合課税部分(みなし配当等)と分離課税部分(譲渡損益)に分けて課税されることになります。 みなし配当については、総合課税となりますので、給与所得等の他の所得が高い場合には、税率が高くなり、結果として税負担が増える場合があります。 そのような場合には、別会社が株式を購入するという方法が考えられます。 この場合は、自己株式の売却ではなくなりますので、全て譲渡所得として扱われます。 | | | ② | 買取価額 | | 会社が相続人から自己株を買取る場合の買取価額は、いわゆる「時価」になります。 単純に「相続税評価額」で売却しますと税務上問題が残ることになります。 時価の算定方法としては、「時価純資産額」や「(類似業種比準価額+時価純資産価額)÷2」といった方法により算出することになります。 |
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【ポイント】個人株主が法人へ株を売った場合の課税関係
●発行法人に買取ってもらった場合 その売却益は「配当所得」となり、税率は、最大で50% ※税率は住民税を含む
●発行法人以外に買取ってもらった場合 その売却益は「譲渡所得」となり、税率は、一律20% ※非上場株の場合 | 平成14年4月の商法改正で議決権がないという株式(議決権制限株式)を発行できる、議決権の自動復活制度を廃止する、発行済株式総数の2分の1を限度として、議決権制限株式を発行することができる、という規定が定められました。 従業員株主が会社の株式を所有するメリット | ① | 経営参加意識の高揚 | | ② | 資産形成・運用 | | ③ | 出資配当金 | 議決権制限株式へ変更する | 会社側のメリット | | 事業承継者以外へ議決権株流出防止 |
| 配当優先株式のポイントは次の2つです。① | 普通株式に優先して配当を受ける権利があること。 | ② | 優先株式の発行限度は発行済株式総数の2分の1以下であること(譲渡制限会社についてはこの限りではない)。 |
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| (注) | なお、新会社法では、株式譲渡制限会社についてはこの規制がなくなり、無制限に議決権株式を発行することができるようになりました。 |
さらに、このような議決権制限株式を発行しなくても株主総会の特殊議決により、議決権や配当について株主ごとに異なる取扱いを定款に定めることもできます。
【現 状】社長保有株式100%を後継者に譲ることは、相続税の負担があまりにも重い
【対策後】対策後の効果 : 社長保有株式のうち、一部(支配権が失われない範囲)を議決権制限株式へ変更した上で、従業員持株会へ譲渡する。従業員持株会へは配当還元価額で譲渡する。(10%配当のとき原則として額面相当額になる)。これにより社長保有株式数を減らすことができ、相続税負担額は軽減される。また、株式を従業員持株会へ譲渡することによって、株式を社外流出させずに、従業員への福利厚生が果たせる。
この対策後、社長保有株700株の事業承継対策としては、360株を後継者に相続させるだけで51.4%の議決権の確保が可能になります。したがって、残る340株(48.6%)は役員や社長親族等に所有させても支配権が揺らぐ心配はありません。個人の土地に会社が建物を建てる場合、常に、借地権の問題が生じます。土地が建物所有者以外のものの所有であれば「土地を借りる」借地関係を避けることはできません。
【借地権の設定基本パターン】① | 借地権の買取 | ② | 借地権の設定 | 無償返還の届出 | | 相当の地代の授受 | | | | 通常の地代の授受 | | 同届出なし | | 相当の地代の授受 | | | | 通常の地代の授受 |
| ③ | 使用貸借(個人間の借地関係の場合) |
| 子会社や事業に関係のある者に土地を賃貸する場合には、本来権利金を受け取るべきであっても、対価を受けないなど相手先に有利な条件で賃貸する場合もあります。このような場合には、通常であれば受けられたはずの権利金があったものとして課税されることになり、これを「借地権の認定課税」といいます。 認定課税される要件と、その権利金の額は次のとおりです。 項 目 | 内 容 | 認定課税される要件 | 次の要件のすべてを満たす場合 ●通常権利金の授受を伴う土地の賃借であること ●通常支払うべき権利金の額を支払っていないこと ●相当の地代の額を支払っていないこと | 認定課税される権利金 土地の更地価額×(1- | 実際に収受した地代の年額 | )-(実際に収受した権利金+特別な経済的利益の額) |  | 相当の地代の年額 |
| 赤字法人が、オーナーの敷地に建物を建築し、借地権の認定課税を行なった場合、借地権相当額は、法人の利益となるもののそれに見合う赤字があれば通算され、税負担は生じないことになります。 結果として、オーナーの敷地の借地権相当が、無償で赤字法人に移転したというわけです。
【赤字法人がオーナーの土地に建物を建築する場合】① | オーナーの土地評価額(借地権割合70%) | | 相続税評価額 1億6,000万円 時価 2億円 | ② | 会社の税務上の繰越欠損金 2億円 | ③ | 現在の会社の株式評価額(純資産価額△2億円) 0 | ④ | 上記の土地に会社の借地権を設定 |
| 項 目 | 現 状 | 借地権設定後 | 差 | 土 地 | 16,000 | 4,800(16,000×30%) | | 合 計 | 16,000 | 4,800 | 11,200 |
| | | 項 目 | 現 状 | 現在の純資産 借 地 権 | 20,000 11,200 | 合 計 | 8,800 |
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一方、法人の利益は税務上の繰越欠損金 | △ | 20,000万円 | 借地権の認定課税 | | 14,000(20,000万円×70%) | 差引 | △ | 6,000万円 | となるため、法人税等の負担もありません。会社が赤字または利益が少ないことは、株の贈与のチャンスです。一般的に類似業種比準価額、純資産価額ともに株価も下がります。
【類似業種比準価額方式における株式の比準要素】 このうち、会社が赤字になれば①の配当金と②の年利益金額はともにゼロになります。したがってこの場合の比準要素は純資産価額のみとなりますので、それを3分の1とすると、株価は大幅に下がります。(ただし、直前々期に利益が出ていることとします)。 類似業種比準価額方式における赤字の場合の評価は上記のとおりですが、では純資産価額方式の場合はどうなるのでしょうか。 この場合は、たとえ赤字になったとしてもそれだけで株価は下がりません。 すなわち、純資産価額方式は、会社の損益という観点からではなく、保有資産の含み益などから、株価を算出するためです。 保有資産について総資産額よりも負債の価額が大きい場合、すなわち、債務超過の場合には株価はどのように評価されるのでしょうか。 通常の場合の株価が37,400円と計算されます。ところが、債務超過の場合だと株価が11,600円と計算されます。 | ●類似業種比準価額による株価(大会社) 500円 × { ( 12円 / 10円 ) + ( 25円 / 20円 ) × 3 + ( 600円 / 500円 ) } / 5 × 0.7 = 430円 | | ●赤字会社の場合の類似業種比準価額による株価 500円 × { ( 0円 / 10円 ) + ( 0円 / 20円 ) + ( 600円 / 500円 ) } / 5 (※) × 0.7 (※)利益比準値がゼロの場合の分母は0 |
【前提条件1】① | 相続評価額による総資産額 | | 10,000万円 | ② | 帳簿価額による総資産額 | | 7,000万円 | ③ | 負債の額 | | 5,000万円 | ④ | 発行済株式総数 | | 1,000株 | ●純資産価額方式による株価 [ ( 10,000 - 5,000 ) 万円 - { ( 10,000 - 5,000 ) 万円 - ( 7,000 - 5,000 ) 万円 } × 42% ] / 1,000株 = 37,400円 | | ●赤字会社の場合の類似業種比準価額による株価 500円 × { ( 0円 / 10円 ) + ( 0円 / 20円 ) + ( 600円 / 500円 ) } / 3 (※) × 0.7 (※)利益比準値がゼロの場合の分母は3 |
【前提条件2】 前述したもののうち、負債の額が8,000万円の場合(赤字3,000万円が発生)●純資産価額方式による株価 [ ( 10,000 - 8,000 ) 万円 - { ( 10,000 - 8,000 ) 万円 - 0万円 (注) } × 42% ] / 1,000株 = 11,600円 | | (注)帳簿価額による純資産価額、評価差額に相当する金額がマイナスの場合は0となる。 |
このように、赤字決算の場合、類似業種比準価額、純資産価額ともに引下げられます。 類似業種比準価額を構成する、配当、年利益、純資産の3つの比重要素数1の会社である場合には、類似業種比準価額方式は採用できず、純資産価額方式が適用されます。会社が赤字または利益が少ないことは、株の贈与のチャンスです。一般的に類似業種比準価額、純資産価額ともに株価も下がります。
【類似業種比準価額方式における株式の比準要素】 このうち、会社が赤字になれば①の配当金と②の年利益金額はともにゼロになります。したがってこの場合の比準要素は純資産価額のみとなりますので、それを3分の1とすると、株価は大幅に下がります。(ただし、直前々期に利益が出ていることとします)。 類似業種比準価額方式における赤字の場合の評価は上記のとおりですが、では純資産価額方式の場合はどうなるのでしょうか。 この場合は、たとえ赤字になったとしてもそれだけで株価は下がりません。 すなわち、純資産価額方式は、会社の損益という観点からではなく、保有資産の含み益などから、株価を算出するためです。 保有資産について総資産額よりも負債の価額が大きい場合、すなわち、債務超過の場合には株価はどのように評価されるのでしょうか。 通常の場合の株価が37,400円と計算されます。ところが、債務超過の場合だと株価が11,600円と計算されます。 | ●類似業種比準価額による株価(大会社) 500円 × { ( 12円 / 10円 ) + ( 25円 / 20円 ) × 3 + ( 600円 / 500円 ) } / 5 × 0.7 = 430円 | | ●赤字会社の場合の類似業種比準価額による株価 500円 × { ( 0円 / 10円 ) + ( 0円 / 20円 ) + ( 600円 / 500円 ) } / 5 (※) × 0.7 (※)利益比準値がゼロの場合の分母は0 |
【前提条件1】① | 相続評価額による総資産額 | | 10,000万円 | ② | 帳簿価額による総資産額 | | 7,000万円 | ③ | 負債の額 | | 5,000万円 | ④ | 発行済株式総数 | | 1,000株 | ●純資産価額方式による株価 [ ( 10,000 - 5,000 ) 万円 - { ( 10,000 - 5,000 ) 万円 - ( 7,000 - 5,000 ) 万円 } × 42% ] / 1,000株 = 37,400円 | | ●赤字会社の場合の類似業種比準価額による株価 500円 × { ( 0円 / 10円 ) + ( 0円 / 20円 ) + ( 600円 / 500円 ) } / 3 (※) × 0.7 (※)利益比準値がゼロの場合の分母は3 |
【前提条件2】 前述したもののうち、負債の額が8,000万円の場合(赤字3,000万円が発生)●純資産価額方式による株価 [ ( 10,000 - 8,000 ) 万円 - { ( 10,000 - 8,000 ) 万円 - 0万円 (注) } × 42% ] / 1,000株 = 11,600円 | | (注)帳簿価額による純資産価額、評価差額に相当する金額がマイナスの場合は0となる。 |
このように、赤字決算の場合、類似業種比準価額、純資産価額ともに引下げられます。 類似業種比準価額を構成する、配当、年利益、純資産の3つの比重要素数1の会社である場合には、類似業種比準価額方式は採用できず、純資産価額方式が適用されます。 >節税対策 >ⅩⅡ 【資産税】株式を活用した節税対策 | 従業員持株会とは、会員を社員に限定して資金を拠出させ各人の拠出額に基づいて持分、収益を分配する制度です。会社オーナーの相続対策としては、自社株が最大のネックになってきますので、その一部を従業員持株会に移転して、相続財産を減らすことができます。 ① 安定株主の確保、株主多数化の防止 ② 売却希望株式の受け皿的機能 ③ 社員の目標形成、経営参加意識の高揚 ④ 会社オーナー自社株評価の引き下げ |
① | 会への参加資格を規約上に明記する。 | ② | 会は任意組合 理事長名義で管理信託されることによる事務の合理化、配当控除の摘要 | ③ | 会の持株比率はオーナー一族の会社の経営権に影響の及ばない範囲内とし、勤続年数や職位等によって、ランク別に割当てを行なう。 ※ただし持株比率1/3未満とすること。 | ④ | 株式の売買価額は配当還元による価額を原則とする。退会時の買取価額は明確にしておかないとトラブルの元になる。 |
| 自社株式の評価は、株の取得者によって異なります。オーナーやオーナー一族は相続税の原則的評価である純資産価額や類似業比準価額といった高い評価額となるのに対し、同族株主社員については評価額の低い配当還元価額が適用されます。 従業員持株会の設立は、株の取得者によって異なります。オーナーにとっては自社株評価を引き下げることができ、従業員も配当というメリットを享受することができます。また、オーナーが発行済株式総数の2/3以上の株式を保有していれば、株主総会の決議において支障をきたすことはありません。 次に従業員持株会規約のポイントについて述べますと、①参加メンバーの資格と脱退次期について、②自社株会の売買価額の2つが主として内規となります。 一般的には、参加者は入社何年以上、または×○役付以上の決め方が多く、脱退は退職時点です。一方、売買価額は配当還元方式が適用されますから、配当5~10%のときは額面相当金額とし、15%のときは額面相当金額の1.5倍といった決め方が妥当なところです。なお、自社株を会社が取得し従業員持株会に譲渡することも可能ですから検討をおすすめいたします。 |
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